◆ 生きていくための短歌  伊波虎英


 一月に、「31文字のエール〜詠み継がれる 震災の歌〜」とい
うNHKの番組で、夜間定時制の神戸工業高校で学ぶさまざまな
境遇、年齢の生徒が短歌創作に取り組む姿を見た。指導している
国語科の南悟教諭が、『生きていくための短歌』という本を、昨
年十一月に岩波ジュニア新書から出していることを知り、そちら
も手に取ってみた。本書によると、文章表現が苦手な生徒たちに、
彼らの生きざまをどうにかして表現させてやれないかと考えて、
二十三、四年前から授業に短歌創作を取り入れているそうだ。


 番組も本も、とても心に響くものだった。ただ、「技巧も飾り
もない、ほんとうに素朴な、ありのままの気持ちを詠んだ歌」に
ストレートに感動したかといえば、映像であったり、歌の背景を
解説した南先生の文章から知る生徒たちの身の上や生きざまその
ものに心を動かされたところが多分にあるように思う。


 とは言え、生徒たちが短歌による自己表現を通して自分自身を
見つめ、それだけでなく他の生徒の歌も読むことで、得難いもの
を得ているのは確かだし、その素晴しさは否定できない。授業で
短歌コンクールへの応募を強要され、ふざけた歌を提出したり、
他人の歌を安易に盗作するような生徒に比べれば、自分の体験や
思いを指折り定型にのせ歌にしようとする彼らのひたむきな取り
組みには、表現するべきコトを持っている者の切実さがある。


 短歌は短いゆえに、いっけん誰にでも簡単に作れそうで、実際、
ネット上には自作の短歌があふれているし、僕自身も結社に属し
毎月短歌をひねり出している。だが、真に表現するべきコト、表
現したいコトを持たずに短歌など軽々しく作るべきじゃないので
は……、自分にはそういうコトがあるのか……。神戸工業高校の
生徒の取り組みは、そんなことまで考えさせられるものであった。