アオバズク己(し)が羽のうちにひそめたるあしより洩れて三本の爪  酒井佑子



見も知らぬ子どもが俺に告げてゆくたしかに燃ゆる一番星を  八木博信



しばらくは俺を見つめて去る猫に老いてさみしい金玉がある  八木博信



水なかに水の塊りひとつかみ沈めおくほどの思ひ ふるさと  柚木圭也



吉野山冬樹の下をいつよりかわれより先に歩む影あり  大谷雅彦



雪兎雪より出でて真緑の椿の耳を残してゆけり  藤本喜久恵



合っている時計なき家めいめいが時計の癖を覚えて暮らす  岩下静香



かなしみの原型としてゆたんぽはゆたんぽ自身を暖めてをり  小池光



死者なればおのが体を消す術のもとよりあらず合掌をする  吉岡生夫



臨終の私はきつと切れ切れに言ひ残すだらうモウ屁モ出ネエ  倉益敬



こころにも草かんむりを与へたし青みづみづと香れるものを  春畑茜



決められた自転車道を進みゆき追突されて死にし男あり  岡田経子



莢もげば南京豆が顔を出す五歳二歳の児が眠るごと  村田馨



新聞の購読止めます、止めます!と言えども退かぬこの販売員  林悠子



四代目江戸家猫八ウグイスの初音鳴きたりうれしき初音  藤原龍一郎



真夜にあふ百鬼夜行にあらざれどウオーキング集団まへより来たる  斎藤典子



雑居ビルの五階にゆくまでエレベーター見知らぬひとをひとり乗せたり  斎藤典子