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九時間も寝てしまひたり目蓋に春の女神のゐさらひ乗りて 川井玲子
救いもせず救われもせず着ぶくれて籠れる日々をミモザ咲き満つ 佐山みはる
壁にゐる子蜘蛛の手足数ふれば可細きながら八本有りぬ 坂口光
そっとリボンを解(ほど)きてやれば幼子がほーっと息する髪をゆらして 下舘みえ子
はるの陽のさしてブーツのつま先に傷しらしらとうきてみゆるも 弘井文子
「あっ、地震」見上げるオフィスの天井に電灯のヒモは下がつておらず 砺波湊
ちらし寿し出来たでみんな早(はよ)食べて 死の近き母不意に言いけり 渡辺幸子
大伴旅人息子に家持といふ名つけたり萬葉の世に 松野欣幸
道端の赤き帽子の地蔵さま目鼻なくとも笑顔におはす 冨山妙子
「放浪記」の公演中止の記事を読み関わりなけれど何故か安堵す 柊明日香
自転する地球にうすく氷はりひとはあそびに四回転すも 吉岡馨
温かな日差しを一杯背に受けて心弾まぬ会へ赴く 矢儀保子