いっぱいのわたしを乗せて地下鉄はわれらにならぬ個体を運ぶ  石川普子



包装紙破るやうには捨てられぬ赤き口ひらくこの友達を  佐藤あきら子



誰も居ない墓地に参れば父もいない母もいないと雀がさわぐ  遊亀涼



死をコピペしたかのように墓石は陽の射す丘に正しく並ぶ  太田賢士朗



蛇口からいづる水さえ春なれば春の山より流れ来にけり  渡口航
 


テーブルのビニールの下にしまいおく振込み用紙日に日に疎し  小林惠四郎



汝が足はてのひらにのる小鳥かなあゝ二一・五センチの靴  伊東一如



ハチドリの羽ばたき一回分の差に金色銀色メダルの色は  黒河内美知子



飲むほどに悲しみだけが降り積もり観測史上一位の孤独  村上喬