かはいいは汚いになる年頃の口の周りのごはん一粒  本多稜



三月の池の濁りに浮きて沈み鯉魚ことごとく人面魚なり  酒井佑子



鵯が騒がしいのとかかはりはなけれども詰将棋が解けぬ  長谷川莞爾



爆竹と靴みがきと唾吐きの漢民族とわれはおもへり  山寺修象



「未修復さはるべからず」朱の文字に記し貼りたし眉宇のあたりに  春畑茜



ひとさらいにあってしまった子のように棚に売られる冬の西瓜は  村山千栄子



と或る夜の食事を最後の晩餐と気づいてしまうその幸運を  藤原龍一郎



古代インド人「0(ゼロ)」を発見し中世日本人「ん」を発見す偉大なるかな  小池光



音狂いだしていよいよ赤き口開けているボランティアのコーラス  八木博信



自転車のペダル踏みつつのぼる坂踏ん張るといふは孤りの行為  小川潤治



新しき言葉にお世辞を聞きたくて新しき仲間にすりよりてゆく  室井忠雄