昔ひとは今よりゆつくり喋りしかゆつくり喋りはやく死にしか  吉岡馨



嘘ひとつ吐くさへ下手でいつもより声音ちひさく二度も言ひたり  洲淵智子



訃報だけはもうききたくもないなんといふ不味さだマックのハンバーガーは  黒田英雄



楤の芽の露に全方位映されて世界とはたつたこれだけのもの  川井怜子



池の面にぬっとあけたる鯉の口くろぐろとして異界へつづく  荒井孝子



沼の面に映る真白き月山を蹴りて飛び立つ鴨の一群れ  荘司竹彦



丸薬をあまた食らへる婆さまの死してのち家は匂ひをうしなふ  関口博美