◆ キングの言葉  伊波虎英  


 <細部、細部、真実は細部に宿る。そして目で見たことは、言
葉にしてくれと叫ぶものではないか?><手はじめは自分が知っ
ていること、そののち、それを再創作する。芸術は魔術だ。それ
に異論をとなえるつもりは毛頭ないが、あらゆる芸術は――どれ
ほど奇抜なものであれ――出発点はごくありふれた日常だ。>
<実験を恐れてはならない――自分なりの創作の神(ミューズ)を
見つけ、案内してもらうこと。>


 これらの言葉は、ある邪悪なモノに導かれ、第二の人生を新進
の画家として脚光を浴びてゆく五十七歳の男エドガーを主人公に
したスティーヴン・キングのホラー長編小説『悪霊の島』(文藝
春秋、白石朗・訳)からの引用――すべて、上下巻22章からなる
物語のあいだで12回にわたってエドガーが語る「絵の描き方」と
いうパートから――である。 


 物語を堪能したのはもちろんのこと、それだけでなく主人公で
ある画家の口を借りて語られる小説家S・キングの創作論といえ
る数々の言葉にたびたびハッとさせられた(ちなみにキングには
『小説作法』という著書もある)。こんなふうに、好きな作家の
本を読んでいて短歌創作のヒントになる言葉や励まされる言葉に
出会うのは――その読書が短歌からの逃避行動であればなおさら
のこと――神の啓示のようにうれしいものだ。


 紹介したい言葉はまだまだあるのだけれど、最後にもうひとつ
だけ、作歌を続けていくうえで勇気づけられる言葉をどうぞ。


 <才能はすばらしいものだが、中途半端であきらめる者を運ん
でくれるわけではない。しかも――作品が誠実な作品であればこ
そ、思考と記憶と感情のすべてが融合する場所を源泉とする作品
であればこそ――かならず途中でやめたくなるときがやってくる。>