産んだのか生まれたのかもわからない深夜の闇に目を開けている  天野慶



<ミッキーの家>に嫌いな人が来ても抱き合わなければならぬミッキー  生野檀



生き残りたる者の持つかがやきにジャネットいよよマイケルに似る  生野檀



補助輪の浮き上がりたる自転車を風にあらがひ追ひかけてゆく  宇田川寛之



行きがかり上CMに出たという顔をしてCMに在り中島みゆき  生沼義朗



「疲れた」は言つた者勝ち面白き報告ひとつ夫に用意す  河村奈美江



「おなかすいた」覚えし日より夕方は常に空腹な子供となれり  河村奈美江



猫のための水の器にたひらかに飲まるるをまつ水のありたり  來宮有人



まだ遠い台風の位置聞くような気持ちで知った君の妊娠  工藤足知



ものごとのはじめを見たいここからが山だとわかる境を見たい  黒崎聡美



首都高速高架の下はひんやりとほのぐらき道 ここは林だ  砺波湊



訂正しても山田くんと呼ぶ人の世界の中で僕は山田だ  渡口航



育ちゆくスカイツリーを孫と思う年寄りがおり電脳都市に  鳴瀬きら



ねむれざる夜の恩寵しののめはつぼみほどくるやうに色づく  春野りりん



葉桜の蔭さやぎをり晩年に足踏み入れしわれにかあらむ  洞口千恵