参道にかへりみすれば東大寺のうへに空あり小さき空が  高島藍



俊成の「の」の字うつくしものひとつ知りてしづかに終るいち日  水原茜



五月尽ひかり増さりて老木はおのれの影に凭れてゆくも  三島麻亜子



くたぶれし皮袋より排泄をなすときひとはいづへにただよふ  弘井文子



洞口依子ウクレレを弾く衿足のぐうんとのびて おんなかぐわし  栗林菊枝



猿害を調べゐる息子(こ)が鹿の糞数へゐる人と結ばれたりき  室山郁子



うつくしき天衣をかづけらるるやうな快楽(けらく) なるかな忘るるといふは  関口博美



街角に微笑(ゑみ)浮べ立つケータイで話すをみなら娼婦のごとし  黒田英雄



にあわないこともひとつの自己主張ヴァンヘイレンの赤いTシャツ  螟虫良