モナリザの瞳  伊波虎英


 オールスター戦明け、阪神が巨人に変わって首位に立ち、ペナ
ントレースがますますおもしろくなってきた。このまま最後まで
首位でいられるかは期待半分不安半分の半信半疑。長年、阪神
ァンをやっていると、阪神の選手がプレーしているのを見るだけ
でじゅうぶん満足、幸せを感じることができるとはいえ、やはり
強いに越したことはない。このまま三位の中日をふくめた三つ巴
の戦いにできるだけ長くからんでいってほしいものだ。


  モナリザの瞳(め)からしずかに汲みあげるセントラルリーグ首位攻防戦  大滝和子『人類のヴァイオリン』


 この大滝さんの歌はすこし難解だけれど、モナリザの前にたた
ずみ、名画をひとり静かにながめるような心持ちで首位攻防戦を
見つめているというようなニュアンスで解釈すればいいだろうか。


 野球は、サッカーのように攻守がめまぐるしく不規則に変わる
わけではない。攻撃と守備の機会が明確に分かれていて平等に与
えられ、その都度攻守交代のインターバルがあるし、ピッチャー
が投げてバッターが打つという両者の勝負の間合い、そして打球
が飛んで来るのに備えてじっと身構え守りにつく選手の姿もどこ
か静的で、絵画鑑賞に通じる要素がなきにしもあらずだ。


 球場へ出掛けてにぎやかに応援するのもいいけれど、僕は家で
テレビ中継を見ながら、ピンチをきっちり凌いだから次の攻撃は
期待できるとか、次は下位打線から始まるから点は入らないだろ
うとか、試合の流れを読みながら静かに観戦するのが好きだ。


 まだ残り試合は五十試合以上ある。どんな「名画」に出会える
のかとても楽しみだ。  


  一球を凝(み)る五万人一球が五万人へと発するひかり  渡辺松男『泡宇宙の蛙』