大変ですねと言はるることの多くなり<たいへん>を生くることの平凡  八木明子



大丈夫って文字が見えた おばあさんの手の甲の皺を見つめていたら  魚住めぐむ



青い空港(みなと)だ工場(こうば)だサイレンだと歌われし校歌の学校が消ゆ  竹脇敬一郎



小鳥らのために朝夕残飯をやる妻が居て老後を保つ  渡辺未知也



臍の垢くじり金魚にあたえおり油照りする七月尽に  上原元



面倒な恋ひとつして石畳にヒール片方つかまれてをり  有沢螢



来世などたぶん無かろうタクシーに乗り込むあなた手招きをする  谷村はるか



ゲームよりスタンドの声の中継と思う広島びとの怒号の  谷村はるか



ドイツ語を喋るを聞くは哀しくていつも必ずヒトラーを想ふ  田中浩



夏まつり笛も太鼓も録音のくぐもる音に間延びる踊り  大滝世喜