■
大変ですねと言はるることの多くなり<たいへん>を生くることの平凡 八木明子
大丈夫って文字が見えた おばあさんの手の甲の皺を見つめていたら 魚住めぐむ
青い空港(みなと)だ工場(こうば)だサイレンだと歌われし校歌の学校が消ゆ 竹脇敬一郎
小鳥らのために朝夕残飯をやる妻が居て老後を保つ 渡辺未知也
臍の垢くじり金魚にあたえおり油照りする七月尽に 上原元
面倒な恋ひとつして石畳にヒール片方つかまれてをり 有沢螢
来世などたぶん無かろうタクシーに乗り込むあなた手招きをする 谷村はるか
ゲームよりスタンドの声の中継と思う広島びとの怒号の 谷村はるか
ドイツ語を喋るを聞くは哀しくていつも必ずヒトラーを想ふ 田中浩
夏まつり笛も太鼓も録音のくぐもる音に間延びる踊り 大滝世喜