台風のちかづくといふまひる間の日傘しなるわしなるでしかし  勺禰子



曖昧に笑(ゑま)へるわれの目のはしに白くかがやく逃げ水のあり  関口博美



わが墓にする自然石を探さむと十年余ただ思ふのみにて  永井秀幸



海外ドラマは時折かなし背を丸めシリアル啜る大男見せ  砺波湊



すらすらと悪口をいふわたくしのその口の端の西瓜のにほひ  川井怜子



電話してもだあれもでない月曜日バゲットにあく気泡も食べる  荒井孝子



髪の毛を掴まれて泣きまた頬を寄せあふ子らは許す生きもの  河村奈美江



夕暮れて庭に摘みたる紫蘇の香が指にとどまる時の間涼し  永田きよ子



大らかに揺れる蓮葉を思わせてゆったり話す隣家の人は  奥田良子


      
逆光に窓の汚れの浮きゐるを見つつ聞きをり友の嘆きを  菊池尚子