引き出しをあければまばたきする老人三寸ばかりがゐるやうな昼  西橋美保



実況はゴーーールと叫ぶ屋根裏のあるいは路地のひとりのトトに  久保寛容



消えたい日…車道に近く歩みおり影を轢かせるそれだけのこと  生野檀



父の死をはさみ今年は七たびの帰郷をなせり長き短き  中平敏子



この星の劫初のいのち思ふときあまき涙の味の塩飴  洞口千恵



供花よりも燈明よりもあざやかな晩夏の雨後の信号機の赤  久保寛容



生きて遭ふ九月の酷暑コスモスの径のかなたにかげろふが立つ  洞口千恵



だれひとり見えぬ真昼の街並はグーグル・アースの画像のごとし  近藤かすみ



ブロックの塀に軌跡を光らせて蝸牛は目ざす遠き聖地へ  関根忠幹