鉄橋の真下に立ちて眼閉じれば我が身の内を列車抜けゆく  太田賢士朗



ひとことも口きかぬまま終はる夜うへに住む人ものを落としぬ  黒河内美知子



種のない柿が届いてダンボール一箱分のさびしい重さ  黒崎聡美



生真面目に無人の部屋で首を振る戦後日本の扇風機ありき  照井夕佳詩



雨にぬるる夜の舗装路に血のごとく信号の赤ながれてゐたり  松岡圭子



たつた今抜けおちし一本の毛髪がどつと闇をば喚びこむと知る  矢古野春子



深みゆく秋と思へり新聞をめくる音にも軽きかげ添ひ  森敏子



関取を乗せて戻りし自転車は平然として原形とどむ  荒船武文