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瘦せたから変わったという人生はいずれにしても軽い人生 鳴瀬きら
人生でいまがいちばん髭濃いと小池光が笑みつつ言えり 中井守恵
ひそとした二百のひとへつきづきの負の数いふにマイクはいらぬ 針谷哲純
わが家ではポチが一番朗らかだ残飯整理係と知らず 山本照子
山羊飼はば草取り不要ときりだしし話は糞のことにてをはる 吉岡馨
みぎ大瀧ひだり小瀧の標識を見て大方が右へと曲がる 荘司竹彦
「天皇様」といふバス停あり西市(にしいち)の安徳天皇御陵墓近くに 脇屋のぶこ
路地をゆく吾の背中を押すごとく自転車のベル追い抜いてゆく 渋谷和夫
それぞれのそれぞれがいま日暮どきエンドロールの鳥たちの影 螟虫良
わが飼へる白ねずみあな黒ねずみけふは黒ねずみすこしあばれる 川井怜子
この手摺り乗り越えられる高さだと思いつつ歩む陸橋の上 佐山みはる
水に未だ騒立つ心持ちしころ海遊館にジンベエザメ見き 洲淵智子
受話器より流るる男のよき声もセールスなればその先聞かず 伊吹礼子
くさまくら旅人算の「A君」をきみの名にかへ追ひつかむとす 春野りりん