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冬木となるメタセコイアの明るさよ空へ帰りしまなこはいくつ 守谷茂泰
さびしさはわれのみぎ手を引きよせて咬まむとしたり口あける母 紺野裕子
ファックスに滲むインクを凝らし見る訃報いちまい簡潔にあり 関谷啓子
指が歯のやうにゆらぎてひとつづつ抜けて失ひゆかば恐ろし 大橋弘志
短歌人編集人たりし二十五年ただ黙々ときみあればこそ 小池光
生きてあれば近づいて来る晩年の黄落といふしづかな力 渡英子
掻きみてはこころよき箇所なおもてる老体にして掻き悦びぬ 多久麻
つれづれに辞書引きをればぼろ儲けのたとへありけり「薬九層倍」 加藤満智子
正論で言い負かされし思い出のいつもシャボンの匂いした友 木曽陽子
マッカチンと呼びて真つ赤なザリガニにこころ奪はれき少年われら 中地俊夫
帰路としてたどる路上につぶれたるビールの缶をもう一度踏む 藤原龍一郎