鳥影を呑みて山影さらに濃し暮れの紅葉の熾火鎮まり  吉原俊幸



マフラーに顔をうずめて眠り込む自分が誰か忘れる程に  暎泉



三回忌に亡父の日記を燃やしおり終に一度も開くことなく  平田栄一



テレビにて圧力鍋の効用をカストロ自ら説明したり  後藤祐子



換気扇低く唸りて異次元に入る思ひす窓なき風呂は  竹内光江



履歴書を書けば見た目は立派だがかざせば紙で向こうが透ける  野上卓



逆さまに置いたコップのようにまた背中を向けて口を閉ざした  工藤足知