今日明日と言われし母は代わる代わる子等とねむりてそして逝きたり  平林文枝



信仰を捨てしにあらず<信仰するわれ>を捨てたり父が死んだ日  生野檀



道問はれ吃りつつ喋るこのわれがもつとも憎し噓教へたり  田中浩



カラカラと笑う上司の眼の奥に怯えのごとき影見つけたり  川口かよ子



「散歩だぞ今日は長いぞ」夫言ひて愛犬送る春の火葬場  水田まり



目の悪き妻の手をひく男きて花の姿を語りていたり  磊実



食欲と性欲のみを書きまくるトイレの如き「苦役列車」  高山路爛