にわかにも押し黙るとき弟は木菟 (ミミズク)のごとひんやりとせり  木曽陽子



怒らねばならぬと思う思いつつドアを開ければ笑うんだろうな  高野裕子



唾を吐かなければ中国人ではないといふごとく中国人唾を吐く  山寺修象



われが警官ならわれに職質す、とおもひて警官とすれちがふ  山寺修象



母の日傘が曲つていつた曲り角今日も私は曲つてゆきぬ  山下冨士穂



雅子さん雅子さんと男の孫が呼ぶゆゑわたし百年生きむ  明石雅子



おとぎ話語り終りし人のつく小さな吐息まるく残れり  守谷茂泰



放尿ののち勢いをましてゆく犬の歩みに従いてゆく  西勝洋一



シャンプーを浴びて気狂ふ猫よ猫なんとかなるさなんとかなるさ  小池光



消防車が帰る炎に魂をぬかれし男たちを抱いて  八木博信



白線の内にさがりて待つわれのそびら押したい春の手あらむ  古川アヤ子



魚の背を水音青く濡しゆき流るる水のしばし遅れし  真木かずさ



燃えつきる線香花火に人生を持ち込めばああつまらなくなる  室井忠雄



届かざるおもひむなしく巻きもどすはくもくれんのひかるかたはら  三井ゆき