穏やかな朝の気持のそのままに花に水やる夕べとなりぬ  榊原トシ子



良い桜今年の花は格別だ天国で見るはずだった花  吉原俊幸



ビルの間に白き太陽沈みゆくわが存在の無き日想えり  石川普子



薄氷をめがねにかえてながむれば人も車もやわらかきもの  村上喬



咳をする祖父の背を抱く肋骨と肺が一緒にならないように  有朋さやか



毎日がなにも起こらぬ日々なのでためしにパンツ裏にして穿く  木嶋章夫



「ヒステリー女」に「妄想男」なり夫婦喧嘩はこだまでせうか  坂本野原



反抗が美しかった時代から遠く離れておでん屋の燗  野上卓



ゴミ箱の消えて久しき街角をひろっちまったごみとさまよう  川前明