螺子巻けば柱時計は渾身の力もてこの春をゆかしむ  三島麻亜子



似顔絵が書けたらきっと知り合いの全てを笑顔にしてあげられる  上原康子



人間の不自由は傘をさしながら歩けりブロンズ裸像の前を  川井怜子



これも網 ストッキングを脱ぐときはつま先振って遠くへ飛ばす  砺波湊



園児らの送る言葉はあはゆきに紛れて稚魚の上に降りつぐ  鎌田章子



店頭の見本に遊びしマニキュアが夕べ鱗のやうに光りぬ  洲淵智子



クレヨンで幼なの描くのびやかな一本の線に隔てられをり  関口博美



机(き)に向かふ警官ひとり浮きいでて影絵のごとし日暮れの交番  小出千歳



「おふくろよりも親父の方が生き方に品があるよ」と息子は言えり  山本照子



感謝して母に贈れとカタログにカーネーションの皺多き花  砺波湊



ああ選挙近いと思うこの女性(ひと)が急に訪ねて来るようになる  平井節子