青空を恋ふ  伊波虎英


ひとり来し梅雨入り近きバラ園の曇天のした目薬をさす


「正常です」と言ひし女がわが部屋の柱の釘にぶらさがりゐつ


炎色の花村萬月『裂』が載る机上をじつと見つめる女


「火事です、火事です」と叫ぶそのときを眼(まなこ)みひらき女は待てり


「遠くへと飛んでゆきたい」錆びついた蝶つがひ鳴る悲しい音で


開き戸の金具まじまじ見てをれば雌雄同体の凍て蝶となる


潤滑剤吹きつけやれば蝶つがひ静かにはねを閉ぢては広ぐ


アフリカにあたらしき国うまれるといふ七月の青空を恋ふ