二十三、二千十一、三、十一。素数並びし日の午後の惨  西崎みどり



節電の小暗き店に入りゆけば余分なものに心はゆかず  森敏子



觔斗雲ひとつうごかず浮きてゐる福島へつづく空のくぼみに  長谷川知哲



青き十字架後ろ身に付く防護服着てをり一時帰宅の人ら  竹内光江



原発より60キロに住まひゐる叔母、叔母、従姉、従妹、従妹、従弟なり  川井怜子



おもひきり外で遊べぬ三つの子ときに怪鳥(けてう)のごときこゑ発しをり  岩崎堯子



産む性と見なされ原発二十キロ圏内取材を外されており  森澤真理



原子力は希望そのものだったからアトムの歌はひたすら明るい  伊東民子



地震保険の保険金をば勝ち取りて仁王のごとし今宵の父は  洞口千恵



屋根修理十五万円支払えば震災の傷一つが消える  滝田恵水



松原は跡形もなし一本の松のみが立つ阿弖流為(あてるい)のごと  会田美奈子



積まれたる瓦礫の山の家壁に「津波のバカ」の楽書哀れ  下舘みえ子



目鼻立ちととのい並ぶみちのくの遺影に南無の三宝唱う  三浦利晴



二ヶ月半経ちて今なお「亡くなられた方々」の名載る津波被害地  細山久美



暈かむりてさびしく被災の地を照らす太陽にむき洗濯物かざす  阿部凞子



被災地で唄うさだまさし泣きすぎるゆえに二つめ曲目変える  小林惠四郎



免罪符のごとく募金の控へ持ち被災地の画像をみつめてゐたり  池田弓子



張りさける思いのリズムあふれきて震災を詠む長谷川櫂氏  今野智恵