新しき洗濯バサミ使うとき指先はバネの力よろこぶ  中野順子



曇りつつひかりあかるしわが耳と耳のあひだで鳴きやまぬひばり  大室ゆらぎ



たちまちにカネと人とは去りゆきて「あのころはよかった」だけが残りぬ  野上卓



図書館のちかくにそびゆる議事堂はからつぽのやうと思ふ昼どき  梶崎恭子



夕暮るる朱(あけ)の鳥居を外つ国のをみな撮りをり人に離れて  平田侑  



初夏の風をはらみしレジ袋交差点を無事渡りきりたり  黒河内美知子



三本の高層ビルを写し込みガラスのビルは更に聳える  田林昌子



ネットショップ山賊村は倒産品内裏雛あり武者人形あり  高橋れい子



鳩を百羽レースに飛ばす男ゐて旅の朝餉の席はにぎはし  佐藤由美



始まりはちよつとした噓雨の日の紫陽花の色青ざめてゆく  海野雪



とぶ鳥をはなれし影がわがまどをよぎりてゆけり鳥のごとくに  田平子