四月なり新年度なり無職なり片目を開けて犬が視ている  納谷孝



ドーナツを半分に割るドーナツは2つになるが穴は無くなる  田所勉



音量を上限近く上げたりて画面に向かひ激怒する父  早坂泰子



三味線で鍛へられたるセツさんの腕にてポンと肩を叩かる  神足弘子



飛ばされた帽子を追へばうしろから花のふぶきが追ひこしゆけり  永井秀幸



街上に子に似る他人と見てをればまさに子にしてにやりと過ぎぬ  吉岡馨



半熟の目玉焼よりとろけ出す黄身もやさしき五月の朝  伊藤直子



シュンランをじじばばと呼ぶふる里の話は尽きず別れを惜む  永田きよ子



日常の会話に使はぬ「もしもし」を受話器握ればすらすらと言ふ  洲淵智子