紺深き今日の朝顔六つあり真先に見しは私であれ  林悠子



ジュンク堂池袋店に「塔」ありて「短歌人」より熱心に読む  山寺修象



逃げ水が舗道まなかに輝いて、あれはクリスチャンセンの足跡  生沼義朗



ただひとり生き残りゐる者のごと午前四時半のかなかなを聞く  三井ゆき



梅はあをき実をこもらせて睡りをり弱小国となりゆく国に  渡英子



合掌のあとの沈黙 残されてひとは世界と同化してゆく  宇田川寛之



さらぼひて思へば悲しわが胸に永遠(とは)に未完のうた一つあり  新谷統



新聞の切り抜きを手に注文す『サリンジャーは死んでしまった』と  大森益雄



高瀬さんに伊良部の馬鹿と詠まれたる剛腕逝けり四十二歳  諏訪部仁



迎へ火に呼ばれて帰るたましひといふものがたりなどて悲しむ  小池光



送り火におくられ帰るたましひといふものがたりさらに悲しむ  小池光


                                                        (2012.1.20.記)