国立の癌センターの入口に車つかへて渋滞しをり  田中浩



八ケ月仰臥せし父、棺へと入りしのち立つエレベーターに  生野檀



骨密度三十代と褒められし九十の父が小遣いくるる  柊明日香



長雨の晴れたる朝(あした)庭さきに露をふふみて蜘蛛の巣ひかる  近藤かすみ



貝がらをひろふ少女を真ん中に跳ねまはるなり真白き仔犬  佐々木和彦



鍋守る友のまなこのやさしさもともにいただく手作りのジャム  野村千恵子



「除塩作業中」の幟のはためける田はくろぐろとちから養ふ  洞口千恵



ヒトラーフセインカダフィと似て非なるは選挙に勝ちてのし上がりしこと  高山路爛



銭湯の失せしこの町へそのないとりとめのないへなへなの街  佐和美子