向かい合いガラス戸拭くときお互いに見て見ぬふりに老いを言わざり  滝川美智子



ポケットティッシュを百個もらひぬシーメンスの補聴器買ひし抽選券で  荒垣章子



三十代六人集ふ既婚一人バツイチふたり子どもはひとり  鎌田章子



いつまでも子どものような夫がいて子どもに戻っていく父がいる  上原康子



競ひつつ寄りくる鯉に餌を投げ人に群れざる吾をもてあます  取違克子



八十八祝ひあひたる友の賀状来ぬまま正月七日過ぎたり  佐久間巴