ねこ捏ねてねこ裏返る日曜の午前をあそび鳥のこえ降る  内山晶太



冬至なり部屋に射し入る赤き陽を負いて明るき短歌を詠まん  畑中郁子



成犬の躾を頼みに行くような心地でメンタルクリニック訪う  生野檀



極月の夕べひとりの紳士来て明治牛乳の試飲を勧む  助川とし子



前世は果実なりしか乙女子の顔の一つに見とれておりぬ  西川才象



渡る人無きぬばたまの十字路に信号機青く灯りていたり  御厨節子



刻印を押さるるごとく雪を受く年の暮れなり 人を喪う  会田美奈子



目に見えぬ張力ありて言葉なき一日過ぎゆく二人住まひは  伊藤冨美代



神の世とうつつの世との境目に賽銭箱がどんと居すわる  岡田幸



薄氷の如く冷たき封筒を投函すれば割るる音せり  楠田よはんな



手作りのブックカバーを着せられて窮屈そうな松本清張  水田まり



みにくきにデフォルメされて麗子立つ 絵具のくぼみ崖のごとしも  花鳥佰



ビンラディンカダフィが死んだ一年を金正日が締めくくるなり  松木



どん兵衛で年越しをする若きらに箸要不要を丁寧に聞く  前田靖子



病棟の裏を通れば調理場に朝を働く人たちが見ゆ  御厨節子



増税の的となるのが常にして淋しい煙草が雨に濡れてた  田中浩