スキージャンプの選手はさほどジャンプ力を必要としないことがわかりぬ  室井忠雄



匿しもつ固き冬の芽 土双つ重ねてすなはち圭也にあれば  柚木圭也



静けさのなかに沈みぬ君も子もいなければただの箱だ、この家  鶴田伊津



死体あるところに赤い旗が立つ炎のようにはためきながら  八木博信



天気図の等圧線がうつくしい 小中英之読む冬の朝  橘夏生



終点の駅のホームに水色のプラスチックの椅子ぞかなしき  関谷啓



荒れ庭に水仙一本咲くからに少しく直に立ちゆくこころ  斎藤典子



降雪がぬらすホームへ「開」ボタン押したる人は降りてゆくなり  渡英子



仲のよい家族というには淋しいが五人が五人せきをしている  吉岡生夫



差し出せる両手の老いのあきらかに身のどこよりもさびしきところ  鈴木律子



父が子を子が父を呼ぶありふれた光景ながら心温とし  山本栄子



生ぬるい風が地下鉄ホームから吹いてずれかけた時間を合わす  猪幸絵



山鳩の遠く鳴く声聞きながら毛糸玉抱く心地に眠る  守谷茂泰



ダルビッシュ有のからみでダルビッシュ無を思ってすこし可笑しい  廣西昌也



ストーヴにおしりを向けて猫はをりさいはひは常(つね)背後より来る  小池光