2012-08-01 ■ 短歌人(月例作品) 短歌 犬の眼 伊波虎英 ブレーキの無き自転車が通り過ぐ風待月(かぜまちづき)のわれをかすめて まきばしら太き乙女もか細きも蟬羽月(せみのはづき)の街を歩めり この菊地直子とともにやせ細りゆきし日本の十七年か 食道を逆流するごとエレベーターのぼりてわれを医院へ吐き出す ここに唯ゐるわれを見る犬の眼の黒さを湛へ位牌は立てり 食は中国にあり炊飯器は日本にありて彼ら大挙す 大鍋を買ひて戻りき大阪で赤児のわれを抱きたる祖母は 一山(いつさん)の寺は暮鐘をならしつつ鳴神月(なるかみづき)の空を巡りぬ