こほろぎ  伊波虎英


こほろぎの声がやさしくひびきをり夜のしじまを啄むやうに


すらすらと歌の出て来ぬ脳みそに塩麹まぶし寝かせてみたき


国旗振るやうに団扇を振るわれの(日本万歳!)入眠儀式


ジャングルに置いてけぼりのさみしさで秋の虫の音(ね)きく熱帯夜


もう辛抱ならぬとばかりに靴ひもが解(ほど)けるごとく自死せし少年


けがれなき瞳かくまふ梨の実にナイフ当つれば滲むものあり


苛めゐし子が苛めらるる子となれるやうにいつしか秋は来てゐつ