三月の耳  伊波虎英


松島アキラの「湖愁」流るるラジオにて母の青春よみがへる朝


一杯の水飲みて寝るならはしは朝のゆまりの爽快をよぶ


廃屋の解体されて後をなほ黒猫はゐて更地を統べる


放たれて花粉まみれの蝶は舞ふ可憐なくしやみ響く車内に


啓蟄の耳より洩るるかぎろひのブルース・スプリングスティーンの魂


春泥のごとき歌声ここちよく耳は喜ぶそのぬかるみを


春雨ぢや濡れて参らうとはならず眼鏡をかけて歩いてをれば


大相撲人気復活の兆しとは関はりはなく日々四股をふむ