桜のうた  伊波虎英


ひと年(とせ)をかけて桜は大いなる肺活量の呼吸ひとつす


春の日のへうめんちやうりよく満開の桜はおほき水の粒なり


花霞のむかうにぼんやり見えてゐるやうな気がした昭和の家族


白髪をもたぬ老木おそろしや萎るることなく散るさくらばな


デモ隊のごとく連なる満開のさくら並木を風は排除す


美しき噓を笑顔でつく人にさくらは千の針として零(ふ)る


負けず嫌ひの「ず」が気になりて花冷えの夜の指をもて電子辞書ひく


ビニールでくるまれて皆既月食の赤月とどく雨の朝(あした)に