◆「短歌人」を読む  伊波虎英 


 「短歌人」が届くと、まず〈斜め読み〉ならぬ〈名前読み〉でざ
っと目を通す。次に、赤ペンを手に読み進めていく時には、名前や
所属欄に関係なく純粋に一首として惹かれる歌に印をつけていく。
連作として楽しめる作品ももちろんあるけれど、あくまで独立した
一首として惹かれる歌かどうかが僕にとっては重要だ。


 洗濯機にへばりつきたる白タオル見るたび思ふ憲法九条 
                       矢野義信(9月号)


 おそらく昨今の安保法案をめぐる論議が背景にあって、作者は憲
法九条へと思いを馳せている。洗濯し立ての「白タオル」から「憲
法九条」を思い浮かべるのは、そこに〈白旗〉のイメージが介在し
ているゆえだろう。日々の生活に根ざした歌であり、まず一番に、
自らの賛否に関しては一切表明していないのが良い。そして、この
歌の肝は、「へばりつきたる」という作者の観察眼と表現にある。


 もう一度やり直したいあの日から四の五の言わず西瓜には塩
                           倉益敬(9月号)


 ある程度年齢を重ねた人であれば、こんなふうに考えることが必
ずあるだろう上句の未練たらしい述懐を、「四の五の言わず西瓜に
は塩」と下句で自らズバッと切り捨ててみせた爽快な一首。体言止
めの印象的なフレーズからは、無造作に西瓜に塩を振って豪快にか
ぶりつく姿が目に浮かぶ。 


 そうもんかうたうもんかの惜春のなにからなにまでておくれである
                           鈴木杏龍(7月号)


 印象的なフレーズと言えば、この歌も心に残った。「そうもんか
うたうもんか」という語呂の良いフレーズから始まり、「うたうも
んか」と言いながら相聞歌になっている。強がりとも思える物言い
の詠い出しを、物寂し気な語感を含む「惜春」という言葉で下句の
絶望感に繫いでいて巧みな一首だ。


 まだまだ触れたい歌はあるけれど、最後に歌のみ二首挙げておく。


 こころばせもてかはしあふことばこそ今年の春のひかりであつた
                          花笠海月(8月号)


 春の雨に春は濡れゆく 忘れてゆくことは花にでもなるのだろうか
                          大平千賀(8月号)