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浜風が頰を冷たく過ぎるころ母恋(ぼごい)の駅に待ち人が来る 村田馨
「女囚携帯乳児墓(ぢよしうけいたいにゆうじのはか)」とつぶやけば車窓追ふ月のごととらはれぬ 高澤志帆
深夜にて鉦一つ打つが三度(みたび)続く零時半、一時、一時半なりと 田中浩
縮まりしわが身の丈も秋の日に長々のびて影を落としぬ 宮岡陽子
戎橋 川は澱みて深まらん虎毒(こどく) 背に負うわれ、関西人 森田直也
爆弾といふ名をもてる大玉の黒き西瓜が土間にころがる 下村由美子
待つという時間はたのし焼きたてのパンを受けとり抱えて帰る 大場恭子
冠とかたち変はりし紙の翳をさなき額(ぬか)をそれより去らず 春畑茜
水を買うことに縁なきふるさとの街に帰りて暮らす日近し 槙村容子
火の元は消したつもりのつもりより出でて家なき家族となれる ふじきけいこ
スコールを待つ草食獣のひとみもて晩夏の駅にならぶ人人 守谷茂泰
あれがみな手紙であらば楽しからん飛びかふ鷗みて言ひあへり 金沢早苗