君に書く手紙の余白 水鳥の帰る空へと繋がっており  守谷茂泰



死にし王の王冠のごと冬の木の高き処に巣は残りをり  西橋美保



広重描く雨の庄野を駕籠急ぐしぶく雨音確かに聞こゆ  井上時夫



みづかさの増えゆく川にほそき橋むかうへの道しろく示せり  花笠海月



遮断機の下りたる瞬間人に従く影もあやふく抜けてゆきたり  三木伊津子



歎異抄説きゆく僧はさわさわと衣の袖をゆらし板書す  宮本田鶴子



少年のやうに笑む父かなしけれ連れ合ひ亡くししことさへ朧  稲吉佳子



雨つたふショーウインドー雛壇にほほゑむ雛の頬濡れて見ゆ  下村由美子



春ごとにねびまさりたる雛の顔よろこびし母のてづくりの鮨  有沢螢



一万日一億秒を生きてきて海鼠を捌くすべなくてわれ  佐藤りえ



帽子かぶりし埴輪出土す漂泊のカンカン帽子の人思はせる  小門則子



春の夜の寝(ね)やのあかりに屏風絵の旅人すこし近づいてをり  高澤志帆



     トリノオリンピック
氷上を加速してゆく食用のごとき腿見ゆ夜のテレビに  内山晶太



選ばれたもの特有の翳り帯び氷上を舞うプルシェンコフは  大橋麻衣子



地吹雪の体験ツアーのありと聞く町おこしという笑えるはなし  細山久美



ガンジー像不服従にしてニューヨークの淡雪を浴び冬も震えず  森田直也



バリまでもケンタッキーのおじさんは追い駆けてくる例の笑顔で  青柳泉



庭石を購いませんかと来る男私は墓石を探しています  田所弘



細すぎる花瓶の口に支えられスイートピーの茎が甘える  エリ


 

                                                   (2007.1.12.記)