白皿の煮物に散らす空豆を仕合せの欠片と今思いたり  山田幸



東北の男はむかしのにほひして父のごとくにふるまひたがる  花鳥佰



陽炎のごとき喪服の親族の一人となりて陽炎に入る  吉川真実



てつせんの垣根の前にわが犬は名を問はれをり美しき敬語に  大越泉



花のごと三歳の顔が迫りきて手にぎり足にぎりくすぐりて去る  和田沙都子



眼科医は「自然なこと」とまた言へり老化と言はず加齢と言はず  菅八重子



何家(なにけ)同士が犇きてゐる霊園は眠る魂が前提にあり  佐々木和彦



あるときを共に過ごせし知りびとの住むこの町をときをり厭ふ  近藤かすみ



携帯の辞書機能に御先祖を呼び出してゐるプラットホーム  みの虫



車内放送先どりしつつ少年は五月を巡る 次は牛込柳町  蜂須賀裕子



児玉清が握りこぶしを見せる時クイズ番組佳境に入る  本田翠



             

                                                    (2006.12.27.記)