あやしげな歌評のまえに一本の歌の姿は爽として立つ  久保寛容



屈むひとの布のうちなるうすき胸透けいるごとくありて哀しも  平林文枝



百歳の父のあくびの吸ふ息に越前くらげほそりつつ消ゆ  みの虫



食べる女(ひと)の耳裏のネヂうごくみゆストリッパーの靴裏のごと  花鳥佰



カウンセリングの順待つ廊下に我と子は椅子三つおき離れて座わる  前田靖子



気がつけば夫も秀歌を詠みてをり老いても何かいいことがある  菊池尚子



地酒の名「死神(しにがみ)」なるがはるばると出雲に住まふ人よりとどく  竹浦道子



乾かない洗濯物を仕舞うにも似て憂鬱なる今朝の目覚めは  本田翠



酸素水といふまやかし民主とふおためごかし世に憚れり  藤田初枝



                                                   (2006.12.16.記)