娘だった頃の話をする祖母は干菓子のような笑みを浮かべて  砺波湊



洗ひ髪ぎつと搾りて塊と成せば青魚(あをな)の首這ふ如し  河村奈美江



ああこんな日日もあったな 精一杯ぶどうの房は張り詰めている  桂はいり



悲しみはさばの味噌煮のなれの果て小骨がのどに刺さりて痛む  田所勉



豆腐屋にわらはぬ親爺けふもゐて赤いあさがほ青いあさがほ  川井怜子



言わなければなーんにもしない夫といる朝の気温ははや三十度  永田きよ子



生きるとは日々これだけの金使ふ妻のうしろにカート押しゐて  早川清生



光復節(こうふくせつ)六十一回目の前日のあさ 東京の街大停電  金二順



だれも来ぬ日射しも遠き部屋ぬちに笑い声知る耳をかきおり  竹市さだこ



高気圧ばかりはりたる天気図と石原良純しばしかしまし  萩島篤



ひとりにて歩むが罰といふやうに四本の背広が道塞ぎをり  黒田英雄



『過客』七七〇g(グラム)を持ちてゆくいつかは留萌の海にて読まむ  田中愛



僅かなる隙間に雨は入りきてしずかに濡れるわれの足指  江國凛



                                                (2006.12.17.記)