冬の陽がステンドグラスを透かすとき囀りのごとき響生るるや  守谷茂泰



歌の師とよぶひとなくてあかねさす永井陽子を姉と呼びたし  冨樫由美子



六根清浄となえる日常なにするもどっこいしょと言い底力だす  瀬戸千鶴



権力と男どちらもしょーもなく喉ばかり渇く『武士の一分』  大橋麻衣子



自動車のナンバーに「ね」の文字あれば必ず蛇行せむと思ひつ  田中浩



湿りたる頁繰る音ことさらに秘め事めきて雨の図書館  青柳泉



信号をまてば小さき悩みごとの足裏(あうら)くすぐる北千住駅前  有沢螢



ずいぶん待った今年最初の雪がもう鼻のあたまでたちまち溶ける  松木



歌詠みは人気先行こそよけれ佐渡海峡をひた打つ霰  小原伸之



保津川を下りてゆけば杉山の鋭がりし梢より風つきささる  遠藤今曜子



二十分水に浸ければいっせいに昆布は小声で笑いはじめる  滝田恵水



ちちははと食べる年越しそば細くほそき縁を来む年も頼らむ  西橋美保



ひといきに祝儀袋をのみこみて獅子は乾ける音に口閉づ  池田弓子



住宅地造成中の一角に約束のように立ってる蛇口  佐藤りえ



浦安が漁師の町であったころ響きあいたり貝を剥く音  村田馨



可愛くてみな利発げな子の群れて泥臭き子をこの頃見ない  山中重子



だれからも好かれる姉の対極に集合写真の隅にわが立つ  染宮千鶴子



信仰か惰性か知らず人々ら一千二百余年を仏像守護す  おのでらゆき