◆短歌人賞受賞作なし



◆佳作賞(3篇)
「夏のをはり」杉山春代
部屋ごとに屑かごありてそのひとつ父の骨壷ほどの大きさ
咲きさかる百日紅の樹のわきに決して笑はぬ道祖神立つ
起きてまづ湯を沸かしをり百年もかうして朝を迎ふるごとく
律儀なら良いわけでなくだんだんに気が滅入るなりラヴェルボレロ
昼下がり白檀の香をくゆらせてなにごともなき八月尽日
さびしさをうしろに隠し立ちてをりブロンズ像もひまはりもわれも



中之島」谷村はるか
信号が点滅すれば交差点を走る 行く場所を持つ人たちが
中之島を二本の川が閉じ合わす何も見なくていいと抱くように
訊かれれば道を教えるいつだってそこで生きてきた人のふりをして
チャチな背中に弱ささらして気づかない男みたいだこの町のビル街
難波(なにわ)橋ひとつひとつの石に古(ふ)る優しいものに手を触れてみる
堂島川河口の夜気のその熱を吸い込んだのか、抱(いだ)かれたのだ



「八千歳の秋」春畑茜
天心はこの手に遠くゆふさりに半円形の月うかびをり
白粥にけふの翳ありひかりあり掬はむとする銀の匙にも
地に降りて午後のひかりを踏み散らす鳩の、あるいは信長殿か
「どうにもこうにもあきまへんのや」夕辻に全葉枯れて立つヤマボウシ
ベランダを砦のごとく思ふ日よをりふし真日を雲を仰ぎて
大椿(たいちん)に過ぎし八千歳の秋はるかなるかなその秋の陽は