坂道を登れば影が立ちあがり能動的にうごきはじめつ  今井ゆきこ



Yシャツの胸ポケットの底からは頭痛のもとのようなクリップ  黒崎聡美



怒鳴るとか微塵も思(も)わず出てしまう自分の声を恐れる夕べ  芦田一子



深閑と火を継ぐ枯葉見てをりぬ日ぐれにとほきときのなぐさに  柘植周子



コンビニの弁当ばかり買っていて恋することを忘れてる秋  平井節子



思はずも手放してしまつた風船のやうなさよならわたしにふたつ  小島厚子



北近畿タンゴ鉄道宮津線のりばの矢印さむくありたり  西五辻芳子



雪の日の孫の残せし靴の跡いとおしくあり避けて歩めり  榊鶏司



プールから帰って眠る子供らは午後の漁船のように静かだ  工藤足知



パソコンから抜け出ぬままの夫の背を見つつほおばる大福ふたつ  田端洋子



百均でめざまし時計購へりガサガサガサと時間を刻む  藤井眞佐子