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あと一つ抜けば終わりの穴あきのジェンガみたいにいもうとは立つ 大橋麻衣子
木漏れ日が脚に絡むと吾に縋り歩める妻よ照れるじゃないか 関根忠幹
つくづくとけふの自分を嫌ふなりおのが影まで蹴りたきほどに 竹浦道子
空き箱を平らにひらけばむささびの飛翔のかたち生れて年の瀬 会田美奈子
今年も食む仙台雑煮ほとびたる干芋茎(からとり)はわれの心根に似る 洞口千恵
お雑煮の餅は一個で十分と老いたる父は着膨れており 前田靖子
「大きなもの食して大きくおなりなさい」鯨汁から鯨よける子 真狩浪子
「人類が地球の未来を考ふる」会議のありてしつちやかめつちやか 藤田初枝
パソドブレ
吾は今、死にゆくまへの牛となりホールの床に蹄を鳴らす 山科真白
夜を怖れあるく浜辺に横たわるヒエロニムスのような流木 久保寛容
電柱に看板を結へる青年はやさしく女を縛るがごとし 田中浩
若き日のわれにやさしく過ぎゆきし男らなべて早逝したり 助川とし子
夢前の川に映りしみづからの影に触れつつ消えてゆく雪 西橋美保
遠つ世に蹴りあげられし毬のごと箱根の山にうかぶ昼月 岡田幸