初昔(はつむかし)  伊波虎英


愛らしき鳥のさへづり聞こえれば歩は止めざれどめぐり見回す


いづこにも小鳥は居らず前をゆく老女がひとり間遠に見ゆる


愛らしくさへづる鳥の音(ね)を立てて軋むカートを押しゆく老女


震災は詩を殺したと思ひつつ紅白歌合戦を見てをり


しかすがに震災はまた懐かしき詩を掘りおこす美しき詩を


録画した勝者敗者を分かつ夜のボクシング見む初昔なるを


(い)ぬるとき首を包(くる)めるネックウォーマーを龍の鱗とおもへば楽し


亀の甲より亀の首タートルネック、年取ればいよよますます寒がりとなる