短歌

DIES IRAE (7) 伊波虎英 黒日傘さしてゐるかのやうにゆく顔みな暗き日本の男 古書店に歌集ひらけば付箋あり「言葉が多い」とのみ記されて 網の目をまとふキリンの舌黒く脱走未遂兵のごと伸ぶ 軍場(いくさば)を入り乱れては嘶ける馬に滲める汗、…

DIES IRAE (6) 伊波虎英 百尊の千手観音十万の手をうち振ればさやぐ新緑 世界遺産を辞退もできず富士山は噴火する日をしづかに待てり まばたきをせずに見つめるまばたきをせぬまま語る石破茂を のんびりと湯船につかる日本人少なくなりて改憲近し…

浪花かしまし 伊波虎英 咲き急ぐさくら三月たかじんが戻つて来たと浪花かしまし (濁音のある)ラジオから(濁音のある)テレビへと澱は積もりて (濁音のある)テレビから(濁音のない)ネットへと上澄む世界 百グラム体重減るはなにゆゑか左足からはかりに…

SOS(サウンド・オブ・サイレンス) 伊波虎英 沈黙の楽(がく)を鳴らして運命はわれらの少し前を歩めり 良き歌を朝日歌壇にみつけたる週のはじめのきな粉牛乳 サイモンとガーファンクルのハーモニーまみれで歩くつちふる街を スギ花粉、黄砂、PM2・5…

【固有名詞の一首 自歌自解】いつもいつも「次は次屋(つぎや)」の案内に笑ひてわれらバスに揺られき 〈われら〉 とは、父母と妹とぼくの四人。 三十五年以上も前のぼくたち家族四人のこと だ。当時、近所にショッピングセンターなど なく、ちょっとしたお出…

ロテリア・デ・ナビダ 伊波虎英 音楽に倦めば異国の宝くじ抽選会をユーチューブで見る スペインの少年少女が唱ふれば五桁の数字は意味を持ち初む 神々しき声で少女は唱へたり異国のわれを抒情させつつ 定型詩詠むは異国の少女らが数字唱ふる神(かむ)さびに…

冬のうた 伊波虎英 稜線をとほくなぞれば指さきに冬のねむりの鼓動つたはる ぬばたまの種田山頭火ァカァカァー酒恋ひしくて啼いてゐたるか シャッターに触れれば街は身構へるフィルムのなき銀塩カメラに カレンダー遣るから所定のアンケートに答へに来よと銀…

神様になりそこねたる雪が降るふかくしづけき大地に焦がる 伊波虎英 *題「雪」(2013.1.22〜2.28) *歌会詠草一覧(27首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/333293588.html *今回は選歌があり(ひとり3首)、 僕の歌は…

キラキラネーム 伊波虎英 個々に名をもたぬ紅葉(もみぢ)の樹々の下キラキラネームの児を母は呼ぶ 母が児を呼ぶこゑ聞けば幾つかの漢字舞ふなり我のなづきに 信仰を棄てし一樹もあかく染む羞恥のこころ神はもつゆゑ 母たちはくれなゐ、児らはだいだいに紅葉…

いちぢんの風 伊波虎英 今もまだ阪神電車に揺られゐむすこし疲れて岡八朗は 注ぎたる水にグラスはぐらつきぬ胡麻ひと粒のもぐりこみゐて みどり濃き菠薐草につぶしつつ胡麻をふらせし母のおゆびは 海原のかなたに生れて海原のはるかに果つるいちぢんの風 風…

ホットケーキ 伊波虎英 パンケーキ食べむと長き列をなす乙女にわれはつらなりがたし 台風が近づいてゐる日曜の昼をふくらめホットケーキよ おそらくは中秋無月となる今宵 すこし多めにふくらし粉混ず パンケーキとホットケーキの違ひなど考へながら生地をこ…

海原のかなたに生れて海原のはるかに果つるいちぢんの風 伊波虎英 *題「自由題」(2012.10.26〜11.26) *歌会詠草一覧(30首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/303937904.html *今回は選歌があり(ひとり3首)、僕の…

こほろぎ 伊波虎英 こほろぎの声がやさしくひびきをり夜のしじまを啄むやうに すらすらと歌の出て来ぬ脳みそに塩麹まぶし寝かせてみたき 国旗振るやうに団扇を振るわれの(日本万歳!)入眠儀式 ジャングルに置いてけぼりのさみしさで秋の虫の音(ね)きく熱…

薄荷緑の歯ブラシ 伊波虎英 養殖のうなぎが餌を喰ふところ見てよりうなぎ苦手となりぬ 花火とは花の火ならず然はあれどアンダルシアのひまはり畑 あたらしきミントグリーンの歯ブラシをおろす寝苦しき夜を越えきて 歯ブラシの刷子にさへも彩色をほどこす無駄…

ベビーリーフ 伊波虎英 納豆に夏の緑をふらせたり刻みてまぜて香る大葉を 納豆の糸食ふために納豆をよくかきまぜる 大飯再稼働 啄木のひと生(よ)のごとき若草のベビーリーフの苦みを食めり つまらないことでも物を考へてをれば頭が痒くなるなり 頭、首、肩…

犬の眼 伊波虎英 ブレーキの無き自転車が通り過ぐ風待月(かぜまちづき)のわれをかすめて まきばしら太き乙女もか細きも蟬羽月(せみのはづき)の街を歩めり この菊地直子とともにやせ細りゆきし日本の十七年か 食道を逆流するごとエレベーターのぼりてわれ…

五月の風よ 伊波虎英 春眠や、行きか帰りか知らねども亀の甲羅にまたがり候 みそ汁の半熟卵をつぶさぬやう茶わんの飯のうへにのせたり つぶさぬやうのせた卵の半熟をましろき飯のうへでつぶしぬ 人間が造りしものを破壊する神が創るを破壊する人 神々が創り…

ジュとオレ 伊波虎英 ポタージュがゆつくり冷めてゆくやうに孤立死はあり、孤立の後に 春一番吹かざる街のミシン目を雑にやぶりて開けてみたし タトゥーなき力士のひろき背(せな)に書く 脱原発 > と人さし指で 番組に過去なつかしむもの多き弥生、日本はも…

春を待つ 伊波虎英 卓上に置きつ放しの聖書(バイブル)は獣舎にねむる象のやうなり たはやすく人を信じてこはれたる人を憐れみかつ羨しびぬ この白くにごれる水を牛乳と信じて今朝もつめたきを飲む 未執行死刑囚たちの心臓の鼓動あつめて降りしきる雨 やは…

冬の真水 伊波虎英 百貨店のみで使へる商品券手元にあればひやくくわてん巡る しめやかに仏具売場は七階の奥処にありて線香を買ふ 浴槽に冬の真水をみたす間もこぼれつづける命はわれを 「カーネーション」見つつ思へり尾野真千子演ずる河野裕子を見たし 六…

初昔(はつむかし) 伊波虎英 愛らしき鳥のさへづり聞こえれば歩は止めざれどめぐり見回す いづこにも小鳥は居らず前をゆく老女がひとり間遠に見ゆる 愛らしくさへづる鳥の音(ね)を立てて軋むカートを押しゆく老女 震災は詩を殺したと思ひつつ紅白歌合戦を…

アロマミストランプ 伊波虎英 アロマミストランプ灯せりぬばたまの夜を短歌に倦(あぐ)み疲れて 月かげの青を浮かべる湖ゆたちたる霧のかぐはしきかな キャンドルが文具でありしいにしへの夜よ、ひと恋ふ心のぬくみ 夕刊に小さく載りしルネ・ヴァン・ダール…

塩大福 伊波虎英 わが何を奮ひ立たせむために見るユーチューブにてKOシーンを もし神のあらばその愛、はつかなる塩大福のしほの味はひ 蜩のイメージのみが心地よく残りてゐたる 『楡家の人びと』 薄き壁へだてて流れ来し唄のおほき声なる「岸壁の母」 神戸…

ああ、なつて仕舞うた 伊波虎英 洗面台の蛇口ひねればなまぬるきねぼけた水がでてくる朝(あした) しやばしやばと洗へばやうやくモンタージュ写真のやうな顔でなくなる 雪安居、夏安居いく度もくりかへし大僧正となりて蟬鳴く ロト6の選択数字になき数(か…

おはぎ 伊波虎英 「御座候」の餡買ひ来たりたんまりとおはぎを作つてくるる母ゐて コンソメのスープ飲みつつお彼岸のおはぎ五つを昼餉としたり 吟遊詩人(トルバドゥール)となりて去りゆくわが影にわかれを告ぐる秋の夕暮れ やや硬くなりしおはぎをきつねう…

もし神のあらばその愛、はつかなる塩大福のしほの味はひ 伊波虎英 *題「自由題」(2011.10.23〜11.25) *歌会詠草一覧(31首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/236035407.html

シャボンの玉 伊波虎英 原爆忌まぢかき真昼、乙女らの日傘は黒き雨傘となる 手を洗ふ無心なる時たまさかにシャボンの玉のひとつ生れたり 中年の昼寝危ふし目覚むれば剃刀の刃の錆びし臭ひす 水羊羹の喉ごしのごとやり過ごす日常の先に晩年が見ゆ 仰向けに転…

蝸牛鳴く 伊波虎英 お好み焼き(おこのみ)のソースの香りかぎながら踏切の棒あがるのを待つ かたつむり張り付くごとしビル壁にあまたあまたの室外機鳴く 鉄板の上でソースがはねるごと「暑い、暑い」と言へり誰しも 夕焼けがお好み焼き(おこのみ)ソースの…

原爆忌まぢかき真昼、乙女らの日傘は黒き雨傘となる 伊波虎英 *題「色彩を詠み込む」(2011.8.25〜9.25) *歌会詠草一覧(34首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/226953332.html

きみは向日葵、われは菜の花 伊波虎英 六月の雨にふくらむ人たちが浮雲となり地下街をゆく 心斎橋筋商店街を進めども進めども中国語ひとつも聞かず 六月といふに猛暑日、神もまた原発推進派か 葉風恋ふ 原子炉の火を遠まきに呼吸するきみは向日葵われは菜の…