2011-01-01から1年間の記事一覧

四月なり新年度なり無職なり片目を開けて犬が視ている 納谷孝 ドーナツを半分に割るドーナツは2つになるが穴は無くなる 田所勉 音量を上限近く上げたりて画面に向かひ激怒する父 早坂泰子 三味線で鍛へられたるセツさんの腕にてポンと肩を叩かる 神足弘子 …

新しき洗濯バサミ使うとき指先はバネの力よろこぶ 中野順子 曇りつつひかりあかるしわが耳と耳のあひだで鳴きやまぬひばり 大室ゆらぎ たちまちにカネと人とは去りゆきて「あのころはよかった」だけが残りぬ 野上卓 図書館のちかくにそびゆる議事堂はからつ…

日常は些細なものに支えられ商店街のニセモノの花 天野慶 引くことを知らぬ少女の傘のなかおかっぱ調の正論をきく 有朋さやか 「世の中はあなたのために出来てない」他人が言えば臓腑にしみる 生野檀 天井や壁に亀裂を走らせて今はみずから伸びる地下街 猪幸…

二十三、二千十一、三、十一。素数並びし日の午後の惨 西崎みどり 節電の小暗き店に入りゆけば余分なものに心はゆかず 森敏子 觔斗雲ひとつうごかず浮きてゐる福島へつづく空のくぼみに 長谷川知哲 青き十字架後ろ身に付く防護服着てをり一時帰宅の人ら 竹内…

青空を恋ふ 伊波虎英 ひとり来し梅雨入り近きバラ園の曇天のした目薬をさす 「正常です」と言ひし女がわが部屋の柱の釘にぶらさがりゐつ 炎色の花村萬月『裂』が載る机上をじつと見つめる女 「火事です、火事です」と叫ぶそのときを眼(まなこ)みひらき女は…

昨夜(きぞ)からの地雨(ぢあめ)やうやく小弛(をだゆ)めば耳の底ひに都市は華やぐ 伊波虎英 *題「自由題」(2011.6.25〜7.25) *歌会詠草一覧(29首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/215695462.html

未来とは明るき日々と思いしにその名かなしき鉄腕アトム 藤原龍一郎 回文の凄まじさよ子らが言うホアンインアホホアンインアホ 足立尚計 「福島の人は来るな」とわが愛車に書かれたりはらからの土地に来たりて 柿沼良訓 原発の作業員らにモザイクをかけて感…

引き出しの隅にありにし耳かきを使えば古いくしゃみが出でつ 多久麻 みどりごの耳朶(みみたぶ)染むる夕日影車内にしばしの荘厳があり 三井ゆき 見るたびにビルに埋もれて通天閣頑固爺の顔をしながら 川島眸 やまとだましひとはあなかしこまほろばの大和ほ…

かざぐるまてんでに回りどのくらいたったか 少し縮んで帰る 猪幸絵 捏ねられてレーニンに化け鳥居に化け混凝土(コンクリート)の近代あはれ 花鳥佰 カワセミはいつもの枝に止まりしを指し示しても見えぬ人あり 立花鏡子 誰からも離れていたき私に鴎は何か問…

螺子巻けば柱時計は渾身の力もてこの春をゆかしむ 三島麻亜子 似顔絵が書けたらきっと知り合いの全てを笑顔にしてあげられる 上原康子 人間の不自由は傘をさしながら歩けりブロンズ裸像の前を 川井怜子 これも網 ストッキングを脱ぐときはつま先振って遠くへ…

穏やかな朝の気持のそのままに花に水やる夕べとなりぬ 榊原トシ子 良い桜今年の花は格別だ天国で見るはずだった花 吉原俊幸 ビルの間に白き太陽沈みゆくわが存在の無き日想えり 石川普子 薄氷をめがねにかえてながむれば人も車もやわらかきもの 村上喬 咳を…

◆ 詩的昇華装置としての定型 伊波虎英 斉藤斎藤さんが「歌壇」一月号で「日常的な感慨を効果的に表現 するためだけに口語も文語もつまみ食いする、いわゆる文体の『ミ ックス化』は、言葉を思想や現実から切り離し、短歌を自己表現の ツールに、短歌のための…

くぐつしとまぢよ 伊波虎英 義眼からあふれてやまぬ泥水をぬぐつてやれぬ傀儡師、神は 願はくは見よ、人形義眼(ドール・アイ) その青き瞳でわれに見えないものを 「運命に逆らはないで」さくら花こぼるるほどの小声で魔女は きだはしを上るがごとく死ぬ人…

にわかにも押し黙るとき弟は木菟 (ミミズク)のごとひんやりとせり 木曽陽子 怒らねばならぬと思う思いつつドアを開ければ笑うんだろうな 高野裕子 唾を吐かなければ中国人ではないといふごとく中国人唾を吐く 山寺修象 われが警官ならわれに職質す、とおも…

今日明日と言われし母は代わる代わる子等とねむりてそして逝きたり 平林文枝 信仰を捨てしにあらず<信仰するわれ>を捨てたり父が死んだ日 生野檀 道問はれ吃りつつ喋るこのわれがもつとも憎し噓教へたり 田中浩 カラカラと笑う上司の眼の奥に怯えのごとき…

スーパーに空棚あれば近よりて何置く棚か表示読みをり 川井怜子 何か背負っているのだろうが頼むから冬木のように立たないでくれ 納谷孝 ビルの間を沈まんとする太陽はごみ箱ひとつ美しくせり 田上起一郎 ブロッコリーの粒粒なべて花となり野菜畑に異形をほ…

目の覚めて夢だつたのかと気付くまで時間がかかるやうになりけり 牛尾誠三 旅自慢の老人ひとり話すうちぽつりともらす子らとの疎遠 山根洋子 わたしには見えない道があるようでヘリコプターは今日もまた飛ぶ 黒崎聡美 寝ようかとまぶた閉じれば暗闇に「死」…

地上みな漆黒の闇その空につきさす様な細き月あり 下舘みえ子 こんな夜に星をみようときみは言うきみが夫でよかったと思う 黒崎聡美 吉兆としてまたたけり少年の少女のゆめに春の星々 藤原龍一郎 震度6強 日常断たれ見あげればオリオン痛きまでにかがやく …

原子力発電所崩(く)ゆ終末のむかうの未来かがやかせつつ 菊池孝彦 傷ふかくながく苦しむ原発は吾が産みし子のひとりなるべし 吉岡馨 航空写真原発のはだか我に見すさびしかりけり日本といふは 田上起一郎 立ち上がることはおそらく無理だらう平成の代に日…

悲しみはテレビ画面をあふれだしわが乱雑の部屋を満たせり 藤原龍一郎 早く逃げてとテレビ画面に右の手を我は思わず差し出しており 山本栄子 ビニールハウス呑まるるにただ息のむのみ空ゆく鳥の目となりわれは 古本史子 瞬く間に波にのまれし町おもひ人らお…

ソーテーガイ、ソーテーガーイ 伊波虎英 かさぶたのごとく桜の咲き継ぎてこの島ぐにの傷よ癒えませ 石垣と堀を備へしいにしへの城の怯えを知らぬ原子力発電所(げんぱつ) 四十年あたためし卵ひび割れてソーテーガイ、ソーテーガーイと鳴き声がする もろもろ…

願はくは見よ、人形義眼(ドール・アイ) その青き瞳でわれに見えないものを 伊波虎英 *題「願」(2011.4.25〜5.26) *歌会詠草一覧(28首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/202831025.html

家族の茶碗静かに洗うエレベーター停まりし計画停電の朝 平野久美子 掃除機のコード最後までしつかりと引き出せといふはがききて笑ふ 小池光 阿と発し吽と応じて一対の狛犬確かめあはむ深闇 蒔田さくら子 遠雷か雪崩かあれはああ冬が帰り支度をしてゐる音だ …

はりつめる寒波をはがし流氷の果てより上る<四角い太陽> 林とく子 クロッカスが芽を出しはじめ私には見えない春のスイッチを押す 滝田恵水 力瘤ちひさくなつた夫のため五粒のチョコをデパ地下で買ふ 佐和美子 地震(なゐ)ありて画面しばらく穏やかな海映…

ポケットに手を入るるときなかにあるモノをかならず握りてをりぬ 長谷川知哲 君が呉れた手袋すれば君にメール打てなくなりて淋しくなりぬ 勺禰子 駅前に並ぶタクシーが表示する「空」と云う字に雪ふりかかる 伊藤直子 空を飛びニューヨークからやって来る生…

一日は長過ぎるゆゑ九時間は眠り人生を短く使ふ 大室ゆらぎ 一日をかけて歩みし五千歩もゼロ歩に帰する真夜中零時 田林昌子 こっせつのしゅじゅつこんある少年と分け合い飲んだリボンシトロン 今井ゆきこ 少しづつ荷の減つてゆくホームレスと荷の増えてゆく…

DIES IRAE (5) 伊波虎英 耳かきが二本セットで売られゐる百円ショップはさみしいところ 三番はイヌ。ハムスター、ネコは駄目。 一番はイルカ、二番はウマ、飼はば孤独癒ゆると脳学者言へり 眠らむと左手でにぎる腹の上(へ)の右手はわれの手か …

鏡中にゐて美容院のながき時間いづこか遠き壁夕焼けす 酒井佑子 あたためたミルクのようなあやうさだ誰かひとりを愛するなんて 鶴田伊津 「自治会を退会します」一枚の紙差し出して去りし人あり 林悠子 新しき眼(まなこ)に写る妻の顔くっきり見えて面白く…

そこにいよと花が言いますわたしからすぐにも離れたがるわたしに 谷村はるか 返された笑顔は理解することを投げだす合図わたしもわらう 猪幸絵 てのひらに乳液馴染ませつつみこむもうねむそうな母の両頬 平林文枝 ふる雪の勢(きほ)ひしづかに増しくればリ…

袋から出てる頭を引つぱつてしつぽから食べるたい焼きが好き 勺禰子 神様がゐやうとゐまいと私(わたくし)は真白(しろ)き便器がとつても好きだ 黒田英雄 山形弁愉しむやうな茂吉ゐて「随行記」読めば心なごみ来 荘司竹彦 あらがはぬことのすがしさ裏表あ…