2007-01-01から1年間の記事一覧

昏鐘鳴雨(こじみあめ)わらべのこゑで傘を打つ さよならあんころもちまたきなこ 駄菓子屋のラムネの壜のビー玉は虐待死せし子の魂(たま)ならむ 雷鳥の冬羽(ふゆは)の冷えとぬくみもつセーラー服の夏衣(なつぎぬ)の白 地下を女性専用車輌は梅雨雲とな…

【扇マーク】 電柱の傾ぎて立てるホスピスの脇より街は暮れてゆくなり 伊波虎英

警官を弾は貫くわけもわからずにわれらは生き残るのみ 八木博信 何になる、こんな時代にキルケゴール読んで蹴飛ばす石もなくゆく 宮田長洋 砲弾のごとき鞄を抱きしめて急ぐ男を雨が包みぬ 倉益敬 上るとき一歩に一歩下るとき一歩一歩と戻れば夕暮 長谷川富市…

荒梅雨や街は汚れてゆくばかり新聞記事にならぬ事件で 村田馨 うぐひすの谷わたり澄む五月尽 午睡の母の補聴器を拭く 紺野裕子 春の海を乱して漢(をとこ)が釣りあげしこれやこの魚(うを)さくら色して 池田弓子 親指の爪で切れ味確かめて通学路刈る鎌を研…

吾が家の前の電柱 電線が無くてもやはり電柱である。 森直幹 「お月さん美しいで」とレジを打つわれに教えてくれる客あり 前田靖子 困りごとあらばいへよと言ふ人のをらぬ団地に十年(ととせ)住みをり 正藤義文 小さき島にひらかれし秘仏観音の時間(とき)…

オバアサン。幼時の記憶の青空のその先に行くな戦争してる 天瀬夕梨絵 ダンディな団塊世代が語りゐる燃えつきたジョーを置き去りのまま 田中愛 他所の花ひそかに愛でるたこ入道よこよこたてよこまる描いてちよん 田村よしてる 花を食ふコガネムシ千窓を這ふ…

◆「十年剥がれる」天野慶 制服が剥がれたのちの十年は鮮明な夢(であるという夢) おっぱいをさぐる子供に起こされる(いつでも今がいちばんいいや) ◆「玻璃刑」安斎未紀 電線にしがみつきたる白き鳩風強き朝の生は揺れをり くちなはのゆるくほどけて陽溜り…

「水の上で歌ふ」武下奈々子 真夜中のフェリーの揺れに見たる夢醒めざるままの歳月眩し 川波が微塵に砕く夕茜あすは異なる水と思へど 苦しみて産みし記憶もさやさやとこよひ螢の河に身を置く 「濃淡」渡英子 木の椅子にながく座りて目瞑れど死者のこゑなど遂…

風羅坊 伊波虎英 軒先に狐火のごと有平棒(アルヘイばう)まはす理髪屋らしからぬ家(うち) うるはしき声とよもして碧空に落ち穴をほる迦陵頻見ゆ 乳呑み児を に放るごと郵便ポストに歌稿を投ず 少年の九竅(きうけう)ゆ出でし風羅坊(ふうらばう)やぶれ…

◆真木勉第1歌集『人類博物館(ミューゼ・ド・ロム)』 (桂書房 1994年3月10日 2000円) 244首 「アナタには合はせる顔がないない」と言ひつつ顔がなくなつてゆく バスを待つ見知らぬ人に挟まれてわれも見知らぬ人になりをり 虫歯五本虫の匂ひのする口の…

<第6回高瀬賞> ◆受賞作(2篇) 「六月輪唱」川井怜子 濡れて立つ木のさみしさに真昼間のプールはひとりひとり影ひく 廃線のうはさのバスが稲荷坂を唸り登れり涙ぐましも 雨あがる空のまほらをちちと鳴きいのちまるごと翔ぶつばくらめ ひかり揉む若葉の風…

隊商をはぐれしごとく空缶のうづたかき積み自転車ゆくも 川本浩美 渡りゆく鳥かも知れずサンライズ出雲の窓から手を振る娘 倉益敬 一輪の花を挿したる硝子器の向かうにしばしゆれてゐる妻 原田千万 樹をのぼる五月の水をおもひつつエスカレーターにひとり乗…

リモコンが敵に渡らば悪になる鉄人28号あはれ 田中浩 風凪ぎの空に釣り糸垂らしゐる父居るやうな春の雲見ゆ 下村由美子 春の日は旅に暮れゆく見はるかす水平線はとわに若くて 守谷茂泰 当選に遠き候補らのびやかに未来図を描く選挙公報 若尾美智子 死者生者…

「妊娠中」と身振りで告ぐる馭車がまたムチをくれをり身重の馬に 藤田初枝 桜さく広場のすみに自転車は「ああもういいわ」と倒れておりぬ 野中祥子 境涯をたらたら詠むのはもう飽きた意地悪ばあさんの見廻りに行かう 西尾睦恵 中古のバイク軋ませてくる能面…

嵐山光三郎を読み終えてゆるり口髭伸びた心地す 山本照子 唐突に新鮮な若者食べたしと食欲湧きぬ陽炎もえて 大畑敏子 水中のひかりにただよう藻のごとし太極拳を舞える老い人 越田慶子 おひとりでさみしいでしょうといわるればストンとすなおにさみしかりけ…

「鳥の巣」廣西昌也 老健に続く小径に桜散る痛いのだけは嫌ですからね わがうちに鳥の巣があるはぐくまれ飛び立ってゆく姿なき鳥 理不尽と渡世が混じりあっていてイチゴフロート美味なりにけり 「よろめく・コロボックル」西村美佐子 けふわれはコロボックル…

◆ 鞄とカバン 伊波虎英 「短歌人」に目を通していると、読み手としてはもちろん、同じ 実作者の立場からも、漢字とかなの表記のバランスや定型のリズム、 さらに破調の歌であればなおさら破調のリズムというものにもう少 し気を配るべきだと感じる作品にしば…

改刻をしたる象牙に朱の肉はしみてわが名のしら紙に浮く 二ミリほどみじかくなりし印判の淡黄白色ゆびにつめたし 関西風うどんをすする姪つ子もちゆるちゆるちゆると齢(とし)経むあはれ 真菰刈るヨドバシカメラに鴃(もず)の舌さへづりやまぬ階を漂ふ 喧…

不登校生にも届く卒業の証、赤紙、千人針は 伊波虎英

海空の交接点に救済のありや、埠頭に多くが見ており 生沼義朗 春がすみへだてておぼろ海柘榴市に平群鮪(へぐりのしび)の声ぞきこゆる 人見邦子 ずんずんと無口になりてゆく吾子が「釣りをしたい」とぽつりと言えり 早川志織 桃の花しづかに咲かせ一軒の古…

自爆テロの死者を数える 自爆せし当人は含まれるや否や 松木秀 傘を打つ雨音のなか陶器より冷えたる夜の桜を仰ぐ 守谷茂泰 猛打賞 ― 球場の宇宙ふかぶかと清岡卓行の一語詩ひびく 谷村はるか

ピラミッド内四千年の臭気濃く進むことのみ目的となる 藤田初枝 堕ちてゆく恐怖を思ふ上を向き歩かうと唱ひし坂本九の 黒田英雄 のいばらの花に玉なす夕露はニッポニアニッポンの涙なるべし みの虫 仮通夜は皆無口なり携帯電話(ケータイ)がしきりに鳴りて…

「夜の馬」久保寛容 落日は川面にモネを模倣してたちまちわれの村を暗くす 大いなる夜の青毛が来る河原とおくの橋から闇に入りゆく 神の名の星星の下残されて畑に傾いている一輪車(ねこぐるま) 「昼の苑」八木明子 卒業式のをとめの袴 とことはに地(つち…

「花群」大谷雅彦 花群のなかまつすぐに陽は差してやや湿りたる額髪にほふ くぐもりの二月三月われのみの桜咲かせて地図はにぎはふ われのみの花に逢はむと上り来し明けのみ吉野ただ白き嶺 「春陽」庭野摩里 水音がかろくなりたり北向きの黒岩沢に春陽めぐり…

ボリュームを一音一音上げていく足りない足りないなんか足りない 丸井まき 受胎せるからだの温み武蔵野は雪なき冬を諸手で抱く 河村奈美江 靴を踏み鳴らして過ぎるあれはこの都市の暗部だ見てはならない 花森こま 綾取りの橋渡し合ふひとなくて卓に置きたる…

卵をかざす 伊波虎英 電灯に卵(かひご)をかざしあかねさす昼の鬱(ふさぎ)を幽閉したし 聖書(バイブル)の天衣のごとき薄紙にわが指先の獣脂吸はしむ 禍津日神(まがつひのかみ)は叫(おら)べり手まはしで防災ラジオに電を充たせば うかららの霊の鎮(…

【扇マーク】 元警視庁捜査第一課長氏の推理みごとに外れて、うらら 伊波虎英

下染めに緋色をしづめ激しかる日本の黒喪家にならぶ 武下奈々子 臆病な鬼が靴履き出て行くもすぐにわたしの闇に戻り来 阿部久美 垂直に立ちつつ回る独楽の芯見てをりここに生きるほかなく 原田千万 大き尻壁に押し当てたゆたへる象のウメコに春風が吹く 秋田…

玄関にビニール傘はひらかれて深夜ひかりを集めつつある 猪幸絵 不器量を言はれながらにタンカンは配られてありランチの卓に 池田弓子 祖父よりも日に日に祖母に似る父の人呼ぶ声も細くなりたり 下村由美子 法廷画家のうなじは太し引き結ぶ被告の唇を写し取…

飽きもせず外を見つめる猫の背の丸みがこころに刺さつて、弥生 藤田初枝 短歌(うた)をよむに上手な人は変人が多しと言ひてなぐさめてゐる 正藤義文 けだし桜はあはき花芽をふくらませ人の寂しさつゆぞ想はず 山本じゅんこ 除草剤蔵ひたる納屋春なればほの…