2010-01-01から1年間の記事一覧

仏壇にほころび初むる芍薬の丸きつぼみの玉を惜しめり ゴキブリの家(うち)をつくりて片隅におく真夜ふとも辺野古をおもふ 咲きのこる丸きつぼみは小さかり貌佳草(かほよぐさ)とも呼ばるる花の 代金を前払ひすれば髪の毛は十分ほどで刈られてゆけり 十三…

3Dテレビのなかの奥深くねむる神へと手をさしいだす 伊波虎英 *題「自由題」(2010.6.23〜8.4) *歌会詠草一覧(27首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/157162782.html

生徒らの倍生きている桜の樹クラス写真に共に写りぬ 岩下静香 ハンガーに下げるコートの皺ふかしゆき止まりなる線が交叉す 紺野裕子 いにしへの璧の翠(みどり)の禾そよぐこの麦畑が行政の淵 武下奈々子 朔太郎は商品にならずゴールデンウィークなれどさび…

必要とされずとも生きのびてやる心を病まぬ誰より太く 生野檀 花火咲き散りにしのちに隕ちてくる闇の重さに母と寄りそふ 有沢螢 いつもそこに静かに立つ木に会いに行く遠き時間に抱かれたくて 御厨節子 「心」という字を書き直し書き直し合格もらえぬまま目…

昔ひとは今よりゆつくり喋りしかゆつくり喋りはやく死にしか 吉岡馨 嘘ひとつ吐くさへ下手でいつもより声音ちひさく二度も言ひたり 洲淵智子 訃報だけはもうききたくもないなんといふ不味さだマックのハンバーガーは 黒田英雄 楤の芽の露に全方位映されて世…

ちつぽけでつまらぬものに一歩づつ近付いてゆく今日を送れり 牛尾誠三 五本指ソックスに指ひとつひとつ入れやるときにわが身はいとし 黒河内美知子 君からのメール届けばポケットの中にて跳ねる一匹の鮎 太田賢士朗 幸ひと思ふひとひの陰影を白きかぶらの曲…

どこまでも狸寝入りの空の下うまれてきては死ぬ人らゆく アルイテモアルイテモアル……イテモあるコンビニ(ここは一体どこだ) 夕ぐれを郵便ポストは傾ぎをり歩き疲れた老婦のやうに 「泣いとんか」「泣いてへんわ」といふふうに降りだす雨がわが頬に触る わ…

子のなかにちいさな鈴が鳴りているわたしが叱るたびに鳴りたり 鶴田伊津 ためいきをひとり落として一椀のココアの膜を夜空と思う 守谷茂泰 スカイツリーと名づけられたるもの伸びる崩折れる日を知らぬごとくに 藤原龍一郎 猿一匹出てきてニュースになる東京…

母の母そして母逝きたはむれのごとくにわれに娘あるなり 小西芙美枝 文集に今後の抱負のみ書いたはるはあかるいからっぽのはこ 生野檀 「あたしの人生、三文小説みたいだ」矢沢あい『NANA』より 三文芝居に出てくる通りのとらうまを後生大事に抱えて生き…

百均で買ったメガネがずり落ちるこんなはずではなかった老後に 山本照子 採血のちひさき穴を湯にしづめ水惑星の夜とつながる 松野欣幸 夫(つま)や子を捨て来しここちに月わびて五重の塔の甍照らしぬ 佐山みはる 遠くまで助けむとして右手(めで)長くなり…

音もなく降る春雨のやさしさに滅菌済みのガーゼをあてる 今井ゆきこ 窮屈で痛いブーツと脱げるほど緩きサンダルわれら姉妹は 有朋さやか 朝もやにまどろむ亜細亜の田園を駆け抜けにけり黒き近代 太田賢士朗 一列に西に向かへる鉄塔は帰還してゆく兵士のごと…

◆ 短歌の声 伊波虎英 最近、関西電力のCMに中島みゆきの「糸」という楽曲が使わ れていて、彼女の歌声がテレビから流れてくると、ほかの作業を していても思わず画面に目が行ってしまう。彼女の曲のなかでも 好きな曲のひとつで、前からよく知っているから…

「赤福」の桃花いろの包み紙ほどけば子規の句が春を告ぐ 豆ごはん緑あざやぐ飯碗にひび見つけたる夕餉の哀し この碗で食ぶる最後の後(のち)の飯(いひ) 豆ごはん食む二膳目を食む あたらしき茶碗を母はまづ茹でつ母の母より伝はる知恵に 女時(めどき)と…

かはいいは汚いになる年頃の口の周りのごはん一粒 本多稜 三月の池の濁りに浮きて沈み鯉魚ことごとく人面魚なり 酒井佑子 鵯が騒がしいのとかかはりはなけれども詰将棋が解けぬ 長谷川莞爾 爆竹と靴みがきと唾吐きの漢民族とわれはおもへり 山寺修象 「未修…

とりあえずゴミ捨てにゆくゴミ袋ふたつ分ほど軽くなるため 柏谷市子 さういへば介護の介の字ふわつと突然降りて来る字のやうなり 中平敏子 尻尾高く揚げをるなり春なれば猫の肛門くれなゐを帯ぶ 矢野千恵子 八百余機の三輪ターレ荷を運ぶ働き蜂の巣うつりの…

九時間も寝てしまひたり目蓋に春の女神のゐさらひ乗りて 川井玲子 救いもせず救われもせず着ぶくれて籠れる日々をミモザ咲き満つ 佐山みはる 壁にゐる子蜘蛛の手足数ふれば可細きながら八本有りぬ 坂口光 そっとリボンを解(ほど)きてやれば幼子がほーっと…

いっぱいのわたしを乗せて地下鉄はわれらにならぬ個体を運ぶ 石川普子 包装紙破るやうには捨てられぬ赤き口ひらくこの友達を 佐藤あきら子 誰も居ない墓地に参れば父もいない母もいないと雀がさわぐ 遊亀涼 死をコピペしたかのように墓石は陽の射す丘に正し…

結社誌にジョン・ケージの沈黙の楽音として欠詠はあり ぬばたまの皮蛋(ピータン)あかねさすアヒル摩尼車(マニぐるま)のごと円卓まはす 広辞苑に「毒婦」と「独夫」ならびゐて男さみしく殺されてゆく あんぱんの中の漉し餡のなめらかさもて腰パンはずり下…

【番組100選】 われに似た少年のゐしヴァラナシに今われに似る青年はゐむ 伊波虎英 ◇4月25日(日) BS2 11:00〜16:30放送 ◇歌人選者/永田和宏、島田修三、小島ゆかり、東直子 ◇ゲスト選者/高橋源一郎(作家)、アーサー・ビナード(詩人) ◇解説…

父われが三千の名を授けたる三千の名のさくら散りかふ 伊波虎英 *題「自由題」(2010.3.23〜5.1) *歌会詠草一覧(36首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/147929972.html

アオバズク己(し)が羽のうちにひそめたるあしより洩れて三本の爪 酒井佑子 見も知らぬ子どもが俺に告げてゆくたしかに燃ゆる一番星を 八木博信 しばらくは俺を見つめて去る猫に老いてさみしい金玉がある 八木博信 水なかに水の塊りひとつかみ沈めおくほど…

大き顔むだに広げる黄蜀葵よく似た女をひとり知ってる 大橋麻衣子 ひとりゆえ親しむこころジャンパーのナイロン生地の擦るる音にも 西川才象 祭壇の遺影はデジタルフォトにしてつぎつぎ変はる大叔母の顔 洞口千恵 ゴキブリを叩いて潰す母親と掃除機で吸う妻…

まつしろなシーツを冬の空に干す風向きはたぶんわたしが変へる 三島麻亜子 あけがたの夢の断片まとひたるわが身に苺ひと粒の寒 関口博美 浴室はほのぼの温し老い母のまろき背中に湯をかけるとき 小出千歳 週ごとに献花のかはる交差点わたり終ふるまで子に付…

冷たさが首に沈んだそのあとに雪解けのように春めく真珠 黒崎聡美 西日差す書棚にありて触れられぬ歌集のごとき姉の独り身 太田賢士朗 陽を浴びてあたたまりたる毛糸玉その温もりを編みこんでいく 伊藤直子 叩かるるたびに大きくうべなひて笑顔絶やさぬペコ…

◆ 生きていくための短歌 伊波虎英 一月に、「31文字のエール〜詠み継がれる 震災の歌〜」とい うNHKの番組で、夜間定時制の神戸工業高校で学ぶさまざまな 境遇、年齢の生徒が短歌創作に取り組む姿を見た。指導している 国語科の南悟教諭が、『生きていく…

カラヴァッジオが描きたるごと一房のバナナにうかぶ斑点の黒(シュガースポット) さりげなく消臭剤の置かれたる開架式書架 雨の匂ひす 数へたことなけれど常にゐるといふホームレスのひと四十人は 当館では天使の羽をもぐやうな音で新聞めくるべからず ぎつ…

LEDライトのひとつひとつには凍蝶一頭仕込まれており 生沼義朗 富士の肩に風湧き起こりきのふ人の死にたるあたり硝子光(くわう)せる 酒井佑子 「おーい、おいでよ」「はーい、おいだよ」ほのぼのと言葉の生るるある日のあした 本多稜 ぢいぢいがしにま…

あと一つ抜けば終わりの穴あきのジェンガみたいにいもうとは立つ 大橋麻衣子 木漏れ日が脚に絡むと吾に縋り歩める妻よ照れるじゃないか 関根忠幹 つくづくとけふの自分を嫌ふなりおのが影まで蹴りたきほどに 竹浦道子 空き箱を平らにひらけばむささびの飛翔…

大いなる物への恐れ入れる為人の脳には小さき空あり 岡頌子 上の歯で下くちびるを押ふれば「いかんといて」を言はないで済む 勺禰子 きつくない言ひやうなどはあらざると碗もて蒟蒻ちぎる夕べに 高橋とみ子 真白なる鯛焼き売らるる歳晩を怒りこらへて買い物…

とぐろ巻く蛇の頭をつかむごと受話器を握り父に電話す 鳴瀬きら 三年も探されている猫がいる今度は猫で生まれてきたい 鳴瀬きら 雪は雪を 母は私を 私は母を 生んでしまつて<しまつた>と言ふ 田宮ちづ子 七十の女が脂肪吸引に死せるを思ふ夕風の中 みろみ …