2007-01-01から1年間の記事一覧

朝昼晩もりもり御飯を食べながら夫は米の値段を知らない 山本照子 美しき蜻蛉(とんぼ)玉得し我が物といふをためらふまでにうつくし 梶崎恭子 春の日は影ひきながら赤光会斎藤病院門をとざせり 越田慶子 おのが身の咀嚼され胃に落つる音をはりに聞くかパン…

「春の顛末」斉藤典子 ダリ展のチケット購ふいくつもの不合格通知受くる子のため 「おもひで」大橋弘志 六歳のころかさびしく食堂で母とうどんを食ひしおもひで 母の苦を歌に変換するわれを酷い息子と妻よ言ふなよ 「春の雪」藤本喜久恵 新しき舗装路黒く光…

放埓な馬のひづめに音叉見ゆ すなはち吹けり春一番の いつの日か柘榴のごとく(異常気象世界めぐりき)地球は割れむ みづうみと海の婚(くながひ) 天あふぎ地上のわれら沈みゆくのみ 高瀬賞応募用紙とわが歌の四百余文字をデジカメに収む 短歌(うた)はわ…

【扇マーク】 イサリウオを名乗らずカエルアンコウに擬態し漁(いさ)るイザリウオはも 伊波虎英 (http://www.fish-isj.jp/iin/standname/opinion_collection/change_name.html)

むわんむわんドリアン匂ひベンタイン市場入口に吸ひ込まれてしまふ 本多稜 大字も字も失せたる集落のアルミサッシのひかりが硬し 武下奈々子 何に怯え構うる我かたなごころまるめて明るき空間仕舞う 佐藤慶子 ふつふつと葱、蒟蒻の煮えてきていまだ終らぬ晩…

求人のチラシ広告手に重く老われらにも来る日曜日 村田馨 道連れを考えていたあの頃と変わらずバンザイして子は眠る 大橋麻衣子 曇天の下で眺める掌の傷より蔓が伸びて宙吊り 大橋麻衣子 塩零せば七年不幸つづくとふイタリアの諺 ゆで卵むく 有沢螢 十三本目…

のど飴が売り切れている街に居てほこりまみれの夢もまた良し 津和歌子 明らかに無能な上司に胡麻をすり鼻の油を腕で拭きたり 西尾睦恵 幼児の小さき頭を撫でてをり父去りし子のかなしき旋毛 菊池尚子 「エッチ大」と言はるるゆゑに校名をやむなく変へし「英…

自転車はサドルを高くして待てり東口(ひがしぐち)から出でくるわれを 谷崎瑳江子 紅さされデイサービスの迎え待つははのぬけがらとぬけがらのはは 朝生風子 譲り合ふ人と人とが譲り合ふゆゑにぶつかる冬の街角 斎藤寛 キッチンにココアを練れば不覚にもふ…

「真白(まっしろ)な鳥」早川志織 誰もいない体育館はみずうみに沈んだ町の音がしていて 木蓮のつぼみ聞こうと耳奥の小さき闇をふくらませたり 三月の車掌が白い手袋で指差す先の線路、菜の花 「寒雲」春畑茜 たましひが濡れてをるなり夕刻の雨なかに立つポ…

ぬるぬるの涎光れりルールなき喧嘩に眼(まなこ)赤き野良犬 電球の切れし洗面台で歯をみがくがごとき寂しさは来ぬ 買ふつもりなけれど未だこの冬の夜に焼き芋を売る声きかず 苛らぎを楽にする意の「イララック」小林製薬の鎮静剤なり 欧米か、と見まがふ宮…

機関(からくり)の半ば見えたるボールペンのやうにはらから母を見舞へり 大森益雄 わたくしに木の時間来て弟のゐることさへもいつか忘れむ 渡英子 煙草族ひそと寄り合ふ屋外のベンチ遠流と近流のあはひ 武下奈々子 氷雨はや雪に変はるかマンホールの蓋のみ…

冬の陽がステンドグラスを透かすとき囀りのごとき響生るるや 守谷茂泰 歌の師とよぶひとなくてあかねさす永井陽子を姉と呼びたし 冨樫由美子 六根清浄となえる日常なにするもどっこいしょと言い底力だす 瀬戸千鶴 権力と男どちらもしょーもなく喉ばかり渇く…

紺村濃の空のくぼみに満月は凍れる鋲として刺さりをり 洞口千恵 日に向きて瞼閉づればあたたかく光はありぬわれにうちにも 御厨節子 卓上に薬袋の置かれゐてはじめてみたるごとき母の名 松野欣幸 使はれし布団を干すとき泣くと言ふ義母(はは)を泣かせに今…

日々ここに落ち葉掃くひと自らもふくろに入りしかけふは在(を)らざり 川合怜子 黄の落ち葉舗道(みち)にびつしり敷かれゐて怪しき影を曳く人が踏む 吉野加住子 まざまざと温き内臓もてるごと夕陽まみれのわが冷蔵庫 脇山千代子 荻ちりぬ 私がしたと言い出…

「記憶不足」猪幸絵 降りながら消えてゆく雪さっきから噛みあっていない会話であった 風船を手放すようにあきらかな別れ方する 割れずにいけよ ぴらぴらと枝毛はひかり突風のホームに女は踏んばっている 「あかつきに来る」高野裕子 「日本は滅ぶね」と言い…

とことはに満つることなき眉月か神呪町(かんのうちやう)をさまよふ牧師 折鶴に息を吹き込むくちびるのかたちを神はもちてゐたるか 唱へたり「加牟波理入道郭公(がむばりにふだうほととぎす)」おほつごもりの夜の厠に 『クオ・ヴァディス』旅行鞄の隅にあ…

「海軍カレー」食べながら飲む一ぱいの牛乳は海の霧のつめたさ 金沢早苗 ダイソーの奥の通路に十個ずつサンタクロースは括られている 今井千草 甘苦いのど飴ひとつまろばせて懊悩ふかき表情をする 大橋弘志 裏町の造酒屋の白壁にジグソーパズルのごときひび…

お前はいつもしづかなアルトかあさんと呼びなづむときお前はいつも 紺野裕子 日本語を縦に書くとき少女らのためらふ気配 中間考査 有沢螢 まばたきをして外燈の消えしのちうつすらと空のまぶたは開く 下村由美子 いつとなく秋の氷雨(ひさめ)となりており忍…

電子辞書の翅をたためばひいやりと蝶のむねはら単四ふたつ 梅田由紀子 邪魔者は消せ的発想プーチンもブッシュもカタヤマ部長も同じ 藤田初枝 キンピラに一割まじる人参の味をたのしむわが愛国心 みの虫 もの言ひて次の展開待ちゐるにすかんぽのごとき言葉返…

遠ざかる猫の背中と立ち尽くす犬の胸との間(あひ)の木枯らし 田村よしてる 霜月のしもつゆみはりわが矢をば師走に向けて放たむとする 郄橋とみ子 焦点をあわさず話しかけること習いとなりぬ閉じたる家に 弘井文子 湯舟より日本海を眺めいつミサイルテポド…

「二月の踵」 阿部久美 録画されしわれにまばたき多きこと粉雪はらふごとく哀しむ 真夜中の氷池にひびの入りたるか緋鯉でありし腓引き攣る 軽くおせば易しくひらく扉(と)はありてゆきかぜ入る弱法師入る 「愚直」 原田千万 鬼の裔ならむやわれも むらさき…

浄水器なきわが家にもフィルターの交換告ぐる電話機があり 浄水器普及するごと核兵器われら望むや あをによし色づき鈍き樹々ふならふならと連れてあるく山道 学習放獣すれど学習をせぬクマの子は銃殺さるも 母親に疎まれ母に捨てられし破顔の遺影によく肖た…

格差社会が身に沁みてゐる僕たちに冥王星よ遥けくまはれ 伊波虎英

明王朝太祖陵墓にあさまだきバドミントンを楽しむ夫婦 本多稜 県北はすずなりの柿一両のワンマン電車が秋を引きずる 山下冨士穂 温泉の効能書きを丹念に読みゆるゆると老人(おいびと)は脱ぐ 渡英子 フィトンチッドのちつともあらぬ行列に並びぬみどりの窓…

霜しろき刈田に一羽発光を仕損じたるごと青鷺佇てり 石井庄太郎 夢虫がむかひの祖母の肩にきていつまでも飛びたつなと念ず 高澤志帆 流れゆく時を結ふ糸恋ほしむる冬のはじめはしづかなりけり 山科真白 職場には相性の悪い人もいて買い替えるたび重くなる傘 …

まつたけの肉片ひらり碗に浮く公開処刑やめざる国の 洞口千恵 手のひらの臭ひ早朝(あさ)より生ぐさしゆふべの夢になに殺めしや 牧尾国子 「日本ハム日本一」に沸く夕べ 嗚呼また誰かいじめられてる 柊明日香 「死んだ気になれば何でも出来たのに」何でも、…

夜の海へ潜水艇の沈むごとストッキングに触れる足指 江國凛 きゅるきゅると藤原紀香の膝小僧モカブラウンのストッキングに透く 越田慶子 《この冬をブーツで制覇!》ファッション誌開戦前夜のようなきらめき 砺波湊 並べられ裸身をさらす魚ゆゑ尾の位置なべ…

◆受賞作 「明るい部屋」佐々木通代 みづからを罰するごとく排泄臭ただよふ午後の病棟にをり いくそたび転倒しても杖を欲る杖さへあれば歩けると母は われら四人で置き去りにした一メートルの排尿管に母をつなげて パイナップル抱へるほどにとげとげの姉の言…

「過ぐ」 酒井佑子 毛桃(けもも)のとき過ぎしかば悲しみて油桃(ゆたう)を食へり桃好き男 雲の肩に八日月かかる牽引の限りなく遠きその月のかほ 首のない白鳥が駆け首のない騎士が追ふ雲は死にかはりつつ 「秋の少年」 倉益敬 せつなさのわけを誰にも聞け…

ジェームス・ブラウン居ぬ大晦日おほ取りの北島三郎「まつり」唄へり 鐘の音(ね)にテロの爆音入り交じる「ゆく年くる年」粛々と見る 伊波虎英 (☆1/1付「さるさる日記」参照)